映画「エスター」鑑賞・レビュー

監督はジャウム・コレット＝セラ。出演はヴェラ・ファーミガ。イザベル・ファーマンの映画「エスター」を鑑賞したのレビューしていく。

※僕のレビューはネタバレを含む場合があります。興味のある方のみご一読ください。

赤ん坊を死産で失い、悲しみに暮れていた夫婦ケイトとジョンは、養子を迎えようとある孤児院を訪れる。そこで出会った少女エスターに強く惹きつけられた2人は、彼女を引き取ることに。しかし、日に日にエスカレートするエスターの不気味な言動に、ケイトは不安を覚え始める。（映画.comより引用）
映画「エスター」あらすじ

前日譚として描かれる「エスター / ファースト・キル」の予告を観たのがキッカケでようやく鑑賞に至った。なので、観たてほやほやな頭の中をさっそく整理していこうと思う。

月並みな意見だが、当時１２歳だったイザベル・ファーマンの狂気溢れる演技は度肝抜かれた。エスターの設定年齢は１０歳だが、物語が進むにつれて、エスターの正体がホルモン障害で見た目が歳をとれなくなった３３歳の大人の女性で、不気味な業を背負った人物なのかがわかってくる。

一見、霊的な要素を含んだホラー映画なのかと思いきや、徐々に明かされていくリアリティある真相と、実は人間って思っていた以上に馬鹿なのかもしれないという象徴的な演出がベタにして巧妙だ。常にエスターにより監視されているかのような恐怖を煽るカメラアングルも見所の一つだろう。

所詮子供は大人に敵わない。男性は女性よりも間抜け。現実を鏡で映すと、こうも芸術作品として成立するのかと感心する。第三者（鑑賞者）になれば気が付くことは山ほどあるだろうが、当事者になってみれば、おそらく僕らは夫のジョンやセラピストような愚かな判断をしてしまう。きっと僕らも、エスターのような怪物の正体には気がつけないのだ。馬鹿なのも人間。恐ろしいのも人間。二つの意味でメッセージ性のある作品だと思った。

いち早くエスターの異常性に気がつくケイトは、死産してしまったことと、元アルコール依存症としての悔やみきれない過去がある。泥酔している最中、愛娘のマックスが氷った池の中に落ちてしまい危うく命を落としかけたことも罪悪感として残っていたり、やたらとどん底を経験してきた人物だ。

家の近くにある凍った池が劇中の随所で映し出されていくのだが、観終わった今なら、あの池こそがケイトの克服しなければならないトラウマの象徴だったとわかる。課題を達成した先に待つ報酬とは違い、課題を無視した上での報酬は禍をもたらすことを知らないケイトは、過去の過ちを乗り越えられていないまま、孤児であるエスターを引き取ることを決意する。結果、ケイトは家にとんでもない化け物を招き入れてしまい、娘と息子、そして夫を混沌に巻き込むことになるのだ。

エスターは、ケイトの中に巣食うトラウマが具現化したような存在だろう。

だからこそ、ケイトだけがエスターと戦わなければならなかった。トラウマは自分だけでなく大切な存在までも脅かす恐ろしいものとして描かれ、”死産した娘は戻ってこない”と、人には代わりなど存在しないことを痛みと苦しみを持って痛感することになる。

氷の池はケイトの心の氷壁であり、それを突破しなければ先へと進むことはできない。それゆえに、ラストの決戦の場が氷の池になる。ほくそ笑みながら襲いかかるエスターは、ケイトの罪悪感に悪魔的にささやきかけるが、最後は渾身の力でトラウマもろともエスターを蹴り飛ばし、エスターは池の中に沈んでいくのだ。しかし、ケイトの葛藤・決着は、順序を間違えてしまったがために多くの犠牲を払ってしまった。

その他にも、化けの皮が剥がれ始めるエスターの演出も素晴らしい。エスターは化粧を持ってしてもケイトの夫、ジョンをたぶらかせなかった。そうとわかるや否や、一家惨殺に踏み出していく。ここで、鏡で自分の顔を見ながら化粧を拭い取っていくシーンがあるのだが、怒りに駆られているエスターはタオルで強引に顔をこすり落としていく。乱雑に残る化粧の跡が、見た目は１０歳のエスターを一気に中身の３３歳へと変貌させたような顔になるのだ。外側と内面を上手くブレンドされており、この悪魔にもう隠すことはなくなったことが、台詞がなくとも映像演出だけで刺さるように伝わってきた。まさにクライマックスとはこのことだと思い感動した次第だ。

この夏。人間ホラーでゾクゾクしたい方にはおすすめの作品なので、是非ともご鑑賞いただきたい。