筆者の小説・詩

マガジン原作大賞応募作「オカルト少年」第一話「始まりの目撃」

以前、週刊少年マガジン原作大賞に応募した旨を記事に書いた。300文字のあらすじと1話〜3話までを作るのがルールとなっており、そのうちのあらすじ(先日公開済)と1話の執筆を終えた。せっかくなのでこちらのブログでも公開する。

文章形式は何でも良いと書かれていたため、小説形式ではなく、なるべく漫画化しやすいような形式に落とし込んで執筆した。もっとも、原作の執筆方法においてこの方法が正しいのかはわからない。

1話は10000文字以内とのことだったので、まとめるのにとても難航したが、ひとまずは書き上げたので読んでいただければと思う。締切の9月30日まで、微調整は加えていく予定だ。

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オカルト少年 第一話『始まりの目撃』原作:MAGUMA オカルトアドバイザー:SHIN 2023.9.10更新

◼️(夢羽の回想)現岡 礼夢の部屋
 散らばったオカルト雑誌と、壁に張り巡らされたUFOやUMAの目撃情報の記事。当時8歳の主人公「現岡 夢羽うつおか むう」は、山積みとなった陰謀論系の書物の隣で、冒険家兼オカルト研究家の父「現岡 礼夢うつおか れむ」の熱弁をワクワクしながら聞いている

礼夢「夢羽むう。神様に会えるとしたら、どうする?」
夢羽「神様に? 会うことができるの?」
礼夢「いいか? 夢羽むう。”事実は小説よりも奇なり”だ」
夢羽「きなり? なにそれ?」
礼夢「俺たちがいる現実世界は、お前がいつも観てるアニメや漫画よりもず〜っと不思議で面白いことがたくさん起こってるってことだ!」
夢羽「ほんとに!? じゃあ、ヒーローとか、秘密結社とか、宇宙人とかもたっくさんいるの!?」
礼夢「もちろんだ!」
夢羽「すごーい!」

 目を輝かせる夢羽。

礼夢「父さんの夢はな、この世の超常現象をすべて証明して、生きてるみんながワクワクするような世界を見せることなんだ」
夢羽「じゃあ父さんの夢が叶ったら、僕もアニメに出てくるような強いヒーローになれるのかな?」
礼夢「もちろんだ!」
夢羽「やったー!」

 礼夢は、夢羽の頭を強く撫でる。

礼夢「夢羽。世界はお前の手の中にある。もちろん、俺の手の中にもな。俺たちは、どんなことでも叶えられるんだ。夢羽…お前の夢はなんだ?」

 礼夢の屈託のない笑顔を最後に夢羽の記憶がぼやけ始め、夢羽によるモノローグが始まる。

夢羽M「どんなことでも叶えられる。そう言った父は、夢を叶えることもなく、呆気なく死んでしまった」

◼️(夢羽の回想)事故現場・富士山頂

 礼夢の死体がある事故現場に群がる登山客。穏やかに目を閉じて倒れている礼夢。日の出が事故現場を神秘的に彩る。

夢羽M「富士山頂にて発見された父の死体は、”史上最も美しい死体”として話題となった。専門家曰く『魂がすっぽりと抜けたような死に方』だったらしい』

◼️(夢羽の回想)登校中の道

 ランドセルを背負った当時8歳(小学2年生)の夢羽がいじめっ子にリンチされている。

同級生A「宇宙人が学校に来んなよ!」
同級生B「親父と一緒に宇宙に帰れ!」
同級生C「この変人!」
同級生3人「へ〜んじんっ! へ〜んじんっ! へ〜んじんっ!」

 ボロボロになりながら涙を流す夢羽。

◼️自宅の前・玄関

 去っていく母の後ろ姿。悲しそうな表情をした礼夢に手を繋がれ、母の背中を見る当時8歳の夢羽。夢羽のモノローグ。

夢羽M「成功者は口々に”夢は人を裏切らない”と言うが、夢は平気で俺たちに見切りをつける。父は夢を追っていたせいで母に捨てられ、夢を追っていたせいで孤立していった。何も悪いことはしていないのに、ただ夢を追っていただけで、だ」

玄関にスプレーで「嘘つき」「宇宙人」などの落書き。夢羽のモノローグ

 夢羽M「俺の父は、夢によって殺されたんだ」

◼️現在・高校の卒業式

 高校の外観。青空。体育館に並ぶ卒業生たち。卒業証書を授与している。校長により名を呼ばれる現在の夢羽(18歳)。

現岡 夢羽うつおか むう
「はい」

 やる気のない返事をし校長の元へ歩く夢羽。啜り泣く同級生を横目に表彰状を受け取るも、感動の表情はない。

◼️校外

 名残惜しい卒業生で盛り上がる校外。孤独となった夢羽を引き取った親戚夫婦(礼夢の妹)「伊勢海 莉愛いせかい りあ(40歳)」と「伊勢海 陸いせかい りく(45歳)」が、卒業生たちの前で一人佇む夢羽を心配そうに見ている。

卒業生男子「俺は野球選手になって、めぐみを幸せにするんだ〜!」

 一人の卒業生男子が夢を叫んでいる。目の前の女子(めぐみ)は顔を赤らめて手で覆い、周りの友人たちが野次馬のように騒いでいる。その光景を荒んだ目で見ている夢羽。

夢羽「くっだらねぇ」

 吐き捨てるように呟き、高校から出ていく夢羽。

莉愛「夢羽くん…」
陸「よせ」
莉愛「でも…」
陸「今日は…あいつの人生の分岐点だ。考える時間をやれ」

 夢羽を止めようとする莉愛を陸が制止。険しさと哀れみの表情。去っていく夢羽の後ろ姿。卒業生と夢羽の対比。

◼️渋谷

 歩きながら道ゆく人間を観察している夢羽。後に仲間となる人物たちとすれ違っていく。どこかへ電話をかけている黒服サングラスの老人「威能 正宗いのう まさむね(71歳)」。無表情で路上に鎮座する占い師の女性「占部 千読うらべ ちよみ(推定年齢30代後半)」。一人で誰かに話し続けている小学3年生の男子「神宮寺 霊じんぐうじ れい(8歳)」。普通のサラリーマン「坂井一樹さかい かずき(43歳)」。夢羽のモノローグ。

夢羽M「俺から言わせれば、夢も世界も、この手になんてない。あるのは、胸糞悪い現実だけだ」

 熱弁していた頃の礼夢の顔が回想で現れ、再び渋谷の駅前で佇む夢羽に戻る。

夢羽M「挑戦する人が笑われて、夢を見る人間が淘汰される。見えない”想い”は誰にも信じてもらえず評価もされない。それが俺たちのいる世界だ。夢はそんな俺たちをただただ傍観して弄んだ挙句、使い捨てボロ雑巾のように躊躇いもなく路上に捨てていく。その間、いっさい俺たちに干渉することはない…そう…」

◼️ビルの屋上・夕方・UFO

 数時間後の夢羽。

夢羽M「…あの瞬間までは」

 至近距離で滞空するUFO。驚愕の表情で見ている夢羽。

 タイトルコール「オカルト少年」

◼️渋谷

 渋谷に蠢く人並み。荒んだ目で見つめる夢羽に「久世 真くぜ しん(33)」が忍び寄り、声をかける。

真「ねぇ君」

 声の方向に顔を向ける夢羽は、初めて久世 真の姿を視認する。ポケットに手を突っ込んでいて、終始ヘラヘラしている様子。

真「一緒にUFO…探しに行かない?」

 真の唐突な誘いに、目を見開く夢羽。向かい合う夢羽と真。呆気に取られていた夢羽は、しどろもどろになりながらも真に返事をする。

夢羽「誰っすか?」
真「迷える子羊たちに夢を配ってるお兄さんだよ」

 ニッコリと返す真。呆然と見つめる夢羽。

夢羽「(携帯を使い)すみません、怪しい人がここに」
真「(ニッコリと)警察はやめようか」
夢羽「すんません。俺、そう言うの信じてないんで」

 去る夢羽を見つめる真。ヘラヘラとした顔から鋭い目つきに変わる。

真「君の父さんは信じていたよ」

 立ち止まる夢羽。真が父のことを知っていることに驚くも、すぐに気を取り直すし、空笑いの微笑を浮かべる

夢羽「どうせ親父のこと、TVかなんかで観たんでしょ? あなたも俺のこと馬鹿にしにきたんですか?」
真「いやいや…」

 夢羽、真に振り返る。

真「むしろ尊敬していたよ。最期の最期まで、この世の真理を追求した素晴らしい人間だった」

 ヘラヘラとしている真。しかし、どこか肝の座った表情。初めて父を褒める人間がいたことに少しだけ感動する夢羽。しかし、苦笑を浮かべ、また去ろうとする。

夢羽「珍しい大人もいたもんだな…」

 ポケットに突っ込んでいた手をもそもそと動かし始める真。

真「君のお父さんから預かってるものがあるんだ」

 立ち止まる夢羽。

夢羽「親父から…?」
真「そう、礼夢さんから…でも…」

 もったいぶる真と、固唾を飲む夢羽。

真「一緒にUFO探ししてくれないとあ〜げないっ」

 しばらく見つめ合う二人。

夢羽「ふざけんな!!」

 急にギャグトーンに変わる。渋谷のど真ん中で輪を書くようにぐるぐると追いかけっこをする夢羽と真。周りの通行人が汗をかきながらチラチラと見ている。

夢羽「返せ!」
真「やーだよ」
夢羽「返せ!」
真「やーだよ」

 膝に手を置き、息を荒くする夢羽。平然と立つ真。

夢羽「はぁ…はぁ…返せぇ…(怨霊のように)」
真「君、思ってたよりエネルギッシュだね」
夢羽「親父が残した唯一の形見なんだ…! 返してくれ!」
真「なるほどね。でも……」

 一拍置いて。

真「やろうよ〜UFO探し〜」
夢羽「だからやらねぇって!」

 柔らかいトーンから落ち着き真面目に戻った真は、その場を離れながら語る。終始、ムッとしている夢羽。

真「まぁとりあえず一緒に来てよ。これを渡すためにはどうしても必要な工程なんだから」
夢羽「形見をもらうだけなのになんでUFO探しに付き合わなきゃいけなんですか…そもそも、まだあなたが誰かもわからないし、信用できません」

 振り返る真。

真「僕の名前は久世 真くぜ しん。答えは君の行動次第で変わる。いいかい? ”事実は小説よりも奇なり”だ」

 微笑みながら手を差し伸べる真と怪訝な表情の夢羽。記憶の中で、同じ言葉を言っていた礼夢の顔が浮かんでいる。

◼️東京の各所

 電車の中で揺られている真と夢羽。東京の各所を移動していく光景をダイジェストで描く。その間、真と夢羽の会話も展開。

夢羽「親父とはどういう関係なんすか?」
真「ん〜、旧友って感じかな」
夢羽「答えになってないです」
真「ははは。礼夢さんとはね、世界をより良くしようって、同じ志を持って活動していたんだ」
夢羽「じゃあ、あなたもオカルト研究家?」
真「当たらずとも遠からず」
夢羽「どっちなんですか」
真「夢羽くん、さっきも言っただろ? 答えは君の行動次第で変わる。知りたいことがあるのなら、自分から知ろうとしないとダメだ」
夢羽「…言ってる意味がよくわかりません」
真「ははは」

◼️路地裏・夕方

 夕暮れの空。各所を転々と歩くばかりで目的地がわからない夢羽は、前を歩く真に痺れを切らして声をかける。

夢羽「ていうか、さっきからどこに向かってるんですか? もう日が暮れてきたので帰りたいんですが」
真「UFOを探してるんだよ」
夢羽「………」
真「おかしいなー。この辺のはずなのに…時間間違えちゃったかな。
LINE送っておけばよかった。UFOって位置情報送れるのかな〜」

 立ち止まる夢羽。振り返る真。

夢羽「やっぱり嘘なんでしょ」
真「ん??」
夢羽「親父から預かってるもの、本当はないんですよね? 何なんですか? 何がしたいんですか?」

 真剣な表情で夢羽を見る真。俯きながら沸々と怒りを露わにする夢羽。

夢羽「親父だけなら飽き足りず、あんたらは俺にまで異端児のレッテルを貼りたいのか…? 別に誰にも迷惑をかけてないじゃないか…俺も親父も、そんなに世間から憎まれるような悪いことをしたってのか?」

 夢羽、怒りが最高潮に達し、涙を流しながら怒鳴る。

夢羽「親父が何をしたって言うんだ! 夢を見るのが、そんなにいけないことだってのかよ!?」

 変わらず真剣な眼差しで夢羽を見る真。優しく微笑み、口を開く。約10年ぶりに感情をむき出しにした夢羽は、息が荒い。

真「君は敬語を使わない方がイキイキしてるね、夢羽くん。あのね…君の父さんは…」

 真が答えようとするも、周囲から気配を感じ口を紡ぐ。

夢羽「なんだよ…親父がなんだって…!」

 言いながら、夢羽も気配に気づき周囲に目を配る。夕暮れのビルに立つ数羽のカラスが飛び立つ。黒い羽が舞う路地の影より、同じく漆黒に包まれたスーツを見に纏う12人の刺客「十二鳥じゅうにがらす」が姿を現していく(正体は秘密結社「八咫烏」だが、現段階ではまだ不明)。十二鳥の一人「京 凛御かなどめ りんご(18)」のみ素顔を見せ、残りの十一人は仮面をかぶっている。動揺する夢羽。真は冷静に答える。

真「思ったより早かったね」
夢羽「え、なに? こいつら誰?」
凛御「あなたが”手帳”を持っていることはわかっています。それは一般市民が持ち歩いていい代物ではありません。直ちに我々に渡しなさい」
夢羽「手帳…?」

 事態を把握できていない夢羽を差し置き、相変わらずヘラヘラとしている真は冷静に答えていく。

真「あいにく、これの所有者はここにいる現岡 夢羽くんなんだよね。僕には君たちに渡す権限がないのさ」
夢羽「俺!?」
凛御「現岡…? まさかこの子は…」
夢羽「ちょっと待て! 何だよその無茶振り!」
真「やっぱり夢羽くんはタメ口の方がいいね」
夢羽「んなこと言ってる場合か! 状況を説明しろ!」
真「これからはお互い”タメ”で行こうぜ」
夢羽「あんたは最初からタメ口だろうが! ていうか手帳って何だー!」

 夢羽と真のくだらないやり取りを呆然と見ている凛御は、冷静ながらも進展のしない会話に少しずつイライラしている。

凛御「所有者がそこの少年であるのなら、尚のこと厳重に保管しなくてはなりません。さぁ、渡しなさい。手荒な真似はしたくありません」

 真、横目で夢羽を見ながら。

真「夢羽くんってさ、運動神経はいい方?」
夢羽「え?」
真「控えめに言ってさ、逃げた方が良さげなんだよね」
夢羽「んなことせずにさっさとその手帳とやらを渡せばいいんじゃないの?」

 路地の暗闇に不気味に並ぶ十二鳥。

真「いや、実は…これなんだよね」
夢羽「え、何が?」

 真、ポケットから古びた分厚い革製の手帳を取り出す。

真「礼夢さんの形見って。君に渡すよう頼まれていたんだけど…ははは…なかなかタイミングが掴めなくってね」

 目を丸くして手帳を見つめる夢羽。静寂。

夢羽「それを早く言えー!!」
真「やっぱり君はエネルギッシュだ」

 自分が標的にされたとわかった瞬間。夢羽は猛ダッシュでその場から走り出し、真もそれに続く。ため息をつく凛御。

凛御「…仕方ありませんね」

 凛御含める十二烏たちは、横に並び指を組み替えていく。陰陽道における式神の術を使い、周囲にあるロープや布切れなどに式神を憑依させて夢羽たちを追わせる。夢羽と真は捕らえようとしてくる物物を間一髪で避けていく。逃げながら会話。

夢羽「うわー!何じゃこりゃー! 捕まったらいっかんの終わり…って」

 夢羽が横を見ると、布やロープでぐるぐるに巻かれながら走っている真が目に入る。

夢羽「めっちゃ捕まってるし!」
真「いやぁ、さすがは式神だ」
夢羽「式神って、陰陽道の? てことはあいつら陰陽師!?」
真「(巻きついていたロープや布を解きながら)当たらずとも遠からず」
夢羽「またそれかー!」

 薄暗いビルとビルの間を潜り抜けていく。真はビルの非常階段に目をつける。

真「こっちへ」
夢羽「あ、ちょっと!」

 方向転換する真と慌ててついていく夢羽。一方、十二鳥はその場を動かず手を組み続ける。なかなか捕まらずため息をつく凛御。奥の手として、悪霊罰示式神(悪霊を式神化し、パートナーとして使う呪文)を使い、大泥棒「石川五右衛門」が召喚される。

 階段を登りビルの屋上を目指す夢羽と真。その途中、五右衛門が現れ、夢羽に向かって大きなキセルを振りかざす。

五右衛門「もらったぁー!」
夢羽「え?」

 間一髪で五右衛門のキセルを真が片足で防ぐ。

五右衛門「てめぇの手帳…この天下の大泥棒『石川五右衛門』様がいただくぜぇ!」
夢羽「誰だお前ー!」
五右衛門「ええ!? 俺のこと知らないの!?」

 真は五右衛門ごとキセルを弾き返す。五右衛門は隣のビルの壁に張り付き、真はその隙に夢羽を連れて屋上を目指す。走りながら会話。

夢羽「あんた本当に何者なんだよ…」
真「しがないオカルトマニアだよ」

 五右衛門に追いつく凛御。

凛御「五右衛門」
五右衛門「おぅ、凛御の嬢ちゃんっ」
凛御「嬢ちゃんはやめなさい」
五右衛門「てやんでいっ! こまけぇこたぁいいんだよ! それより、厄介なのがついてるみたいだぜ。あれじゃ盗むのも至難の業だ。それに…」

 劇画になる五右衛門。

五右衛門「あのガキ俺のこと知らねぇしよぉ…!」
凛御「それはどうでもいい」

 気を取り直す凛御。

凛御「(二人が登る階段を見上げながら)もう手加減はしていられませんね」

◼️ビルの屋上・夕方

 夕日に染まる屋上。息を荒げる夢羽と、平然としている真。

夢羽「はぁ…はぁ…もう無理…!」
真「さて、そろそろだね」
夢羽「何が…? いい加減ちゃんと説明してくれよ…」

 真、ポケットから礼夢の手帳を取り出す。

真「これのことかな?」

 幼き頃、礼夢がよく手に持っていた手帳を目にした夢羽は、目を丸くして手帳を見つめる。

夢羽「それは親父がずっと使ってた何の変哲もないただの手帳だ! それが何で、あんな得体の知れない連中に狙われなきゃなんねぇんだよ!」
真「…この手帳には、彼がこれまで実際に目にしてきた神秘…いわゆる、オカルトの情報が事細かく記されている。だが、問題なのはそこじゃない」
夢羽「じゃあ何なんだよ。その手帳に何が書かれてるんだよ!」
真「”神と会う方法”」

 時間が止まったように状況を受け入れられない夢羽。ビルの屋上に風が吹く。

夢羽「神と会う…だって?」
真「そう、だからこの手帳は…」
凛御「この世にあってはならないものです」

 凛御の声で振り返る夢羽。その瞬間、猛スピードで石川五右衛門が真の手から手帳を奪い、凛御の手に渡す。いつの間にか、凛御含める十二鳥が屋上に集結している。

五右衛門「一丁あがりっ!」
夢羽「あっ!何を…! か、返せよ!」
凛御「それはできません」
夢羽「それは親父が俺に残した唯一の形見なんだ! あんたらに奪う資格なんてないだろ!」
凛御「確かに、私たちに奪う資格はありません。が…」

 凛御の目から感情を消えていく。

凛御「保管する義務はあります」
夢羽「…このクソ野郎!」

 夢羽、凛御に向かって突進していくが、五右衛門のキセルによって腹部を殴られ後方に飛ばされる。

夢羽「ぐっ…!」
五右衛門「やめとけガキ。俺のことぉ知らねぇ報いだ」
夢羽「返せぇ…!」

 再び突進する夢羽。同じように五右衛門のキセルで飛ばされる。冷静にその光景を見る真。諦めず、夢羽は立ち上がる。

五右衛門「ったくしつけぇぞテメェ!」
夢羽「かえ…せ…」
五右衛門「このガキぁ…」
凛御「あなたにはもう関係のないことです。大人しく諦めなさい」 

 夢羽、突っ立っている真を見る。

夢羽「あんたなにぼーっと突っ立ってんだよ…さっきみたいに俺を助けてくれよ!」
真「………」
夢羽「あんたが俺を連れてきたんだろ! 何とかしろよ!」
真「言っただろ夢羽くん。答えは君の行動次第で変わる」
夢羽「その言葉はもう聞き飽き…」
真「君は手帳を取り返したいのかい? それとも取り返したくないのかい?」
夢羽「俺は…」
真「いらないものならばこのまま潔く帰ればいい。またいつもの日常に戻ることができる。それが君の望んだことであれば、誰も否定したりしない」
夢羽「俺は…」

 冷静に夢羽を見つめる真。優しい表情に変わる。

真「世界は君の手の中にある。君が本気で信じれば、どんな願いでも叶えられるんだよ」

 礼夢の言葉と真の言葉が頭の中で交錯する。その瞬間、何かが吹っ切れたように夢羽の意識が変わり、ゆっくりと立ち上がって凛御たちへ体を向ける。凛御含める十二鳥は、夢羽の変化に動揺。

夢羽「俺は…」

 夢羽の目つきが鋭くなる。

夢羽「手帳を取り戻す!」

 凛御の手にあった手帳が勢いよく飛び出し、夢羽の手元に戻ってくる。キャッチする夢羽。息をふーっと吐き、手にある手帳を見て驚いている。

凛御「なっ…バカな…!」

 にっこりと微笑んでいる真。十二鳥、周りの物質に式神を宿し、一斉に夢羽に攻撃を仕掛ける。

凛御「五右衛門!」
五右衛門「あいよっ!」

 五右衛門も夢羽に襲いかかる。先程まで立っていた真。襲いかかる物に対し、驚異的な身体能力を使い微笑のまま足のみで捌いていく。五右衛門が夢羽の目の前まで接近し、キセルを振り上げる。

五右衛門「これでおしめぇだガキぃっ!」
夢羽「…やめろ!」
五右衛門「んなっ!?」

 夢羽が言葉を発した瞬間、謎の波動により五右衛門は勢いよく吹き飛ばされる。

五右衛門「何だあのガキぁ…!?」
凛御「あなたたち…」

 物を全て打ち落とした真は夢羽の隣に着地。夕陽が二人を照らし後光となる。

凛御「何者なんですか…!」

 夢羽と真。十二鳥が対峙する。しかし、何かが迫ってくるように空気が振動。真、後ろを見ながらニヤリと笑う。

真「やっときたね」
夢羽「え、なにが?」

 十二鳥と凛御、五右衛門は夢羽の後ろにあるものを見て驚いている。その表情を見た夢羽は、恐る恐る背後にあるものを確認。すると円盤型のUFOが夕日に照らされ滞空している。

夢羽「これって…」
真「そう、UFOだよ」

 滞空するUFOを見て、涙を流す夢羽。

凛御「まずい…!」

 凛御含める十二鳥。何かに焦るように再び式神を発動させる。滞空音と光が徐々に上昇。やがてUFOにより大きな光が解き放たれ、あたり一面を白く包み込む。

◼️夢羽の家・寝室・朝

 気を失っていた夢羽。起きると寝室のベッドの上。UFOを見た光景が脳裏によぎるが、その後のことは覚えていない。

夢羽「夢…か、まぁ、そらそうだよな…」

 夢羽、どこか残念そう。

◼️夢羽の家・リビング・朝

 頭をかきながら階段を降りリビングに到着すると、そこには何食わぬ顔をして座ってコーヒーを飲んでいる真がいる。

真「あ、おはよー夢羽くん」

 夢羽、ズゴーと勢いよく滑りこける。

◼️公園のベンチ・朝

 公園から見上げる青空。木陰にあるベンチに座る夢羽と真。

真「はっはっはっはっは! ごめんごめん。君の父さんとは友人だったから、妹さん夫婦とも何度か面識があってね。君を送り届けたついでに泊めてくれて朝食までご馳走になっちゃったよ。いやぁ〜やっぱり真心こもったご飯は最高だね」
夢羽「あんた」
真「ん?」
夢羽「えっと…どこから話せば…」
真「あ、そうだ」

 真、ポケットを探り、手帳を取り出す。

真「これ、返しておかないとね」

 手帳を見て、夢ではなかったことを確信する夢羽。嬉しい反面、徐々に恐怖が蘇り勢いよく後退りする。

夢羽「ぎゃー! やっぱり現実だったー! よるなっ! あっちいけ! しっ! しっ!」
真「(ニコニコしながら)夢羽くん。さすがにそれは傷つくよ」

 時間が経過。落ち着いた夢羽に、真は説明している。

夢羽「信じられない」
真「”神と会う方法”かな?」

 夢羽、静かに頷く。真、持っている手帳を夢羽に手渡す。

真「読んでごらん」

 夢羽、恐る恐る手帳を開く。しかし、何度やっても開かない。

夢羽「あれ、なんかくっついて…開かない」
真「その手帳は必要なときに必要なページが開くようになっている」
夢羽「ハイテク!? 親父…どんな手品を使ったんだよ」
真「礼夢さんは、息子である君のために”神と会う方法”をその手帳に記した」
夢羽「俺のために…? だったらなんで、生きてるときに教えてくれなかったんだよ?」
真「いいかい? 情報は小出しにしなければ脳が処理しきれないんだ。だから順を追って取り組む必要がある」
夢羽「ふ〜ん……」

 夢羽、凛御たちのことを思い出す。

夢羽「ていうか、あの黒スーツの連中は何者?」

 真、一呼吸おいて語り出す。

真「…彼らの名は……八咫烏」
夢羽「八咫烏…それって…」
真「そう、日本最古の秘密結社だ」
夢羽「八咫烏が…実在してた…?」
真「八咫烏は代々、天皇陛下のために尽力してきた組織だ。この国の均衡を保つために暗躍し、役員においては戸籍を持たない者がほとんど。昨日、君を襲ってきたのは、組織の中でも選りすぐりのエリート集団『十二鳥じゅうにがらす』だ」
夢羽「そいつらが何でこの手帳を…」
真「言っただろ? 八咫烏は天皇陛下のため、国の均衡を保つために暗躍しているんだ。その手帳は国どころか、世界を揺るがしかねない重要な情報が詰まっている。だから、保管するために躍起になっているのさ」
夢羽「………」
真「ほらね、たったこれだけの情報でも脳みそがパンクしそうだ」
夢羽「う、うるさいなっ!」

 手帳を見つめ、礼夢を思い出す夢羽。

夢羽「親父はずっと世界を救いたがってた。超常現象が実在することを証明できれば、みんなが希望を持ってワクワクした世界を作り出せるって…そして…」

 夢羽、空を見上げて立ち上がる。

夢羽「親父の夢は、俺の夢でもあった」

 夢羽の後ろ姿を、礼夢の姿を重ね合わせる真。微笑を浮かべる。

夢羽「その手帳、本当にもらっていいんだな?」
真「もらうも何も、これはもう君のものだ。で、これをどうするつもりだい?」
夢羽「もしもあんたの話が本当で、親父が俺にこの手帳を託したんなら……」

 夢羽は振り返り、決意を固める。

夢羽「会いに行ってやるよ。神とやらに。俺は親父の夢を否定した連中を許さない。だから今度は、俺が親父に代わって超常現象の証人になる。あと……」

 夢羽、一呼吸おいて。

夢羽「人を夢で弄ぶなって、神に直談判してやる。」

 情熱的な瞳を見て立ち上がる真。

真「面白い! そして、やっぱり君はタメ口の方がいい」
夢羽「嘘だったらただじゃおかないからな」
真「決して嘘ではないと、この命に賭けて誓おう」

 見つめあう二人。

夢羽「…で、まずは何をすればいい? …いや、答えは俺の行動次第で変わる…だったな」

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