筆者の小説・詩

マガジン原作大賞応募作「オカルト少年」 第三話「死神に好かれた女」

noteにて開催中のマガジン原作大賞の締切が明日に迫っている。急ぎ第三話の執筆を終え投稿したので、こちらのブログでも皆様に観ていただけるように公開。オカルト少年は、生涯かけて描きたいと思っている物語なので、本大会で選抜されなくとも、どうにかして執筆は続けていきたいと思っている。

超常現象は、僕ら人間がいかにとるに足らないちっぽけな存在なのか、そしてこの世界の本当の姿はいまだ誰も知らない真理を教えてくれる。そんなオカルトを、ほんのちょっと現実にもありそうに見えるよう、エンターテインメントとして描いたのが「オカルト少年」だ。

漫画の原作として執筆しているため、小説形式の文章ではないことをご理解いただきたい。

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◼️渋谷・昼

 げっそりとした女性「戦慄 鹿子わななき しかこ(35歳)」が、のそのそと夢羽たちのもとへ歩いてくる。ニヤついている得体の知れない黒いモヤを、冷や汗を流しながら見ている夢羽。平然としている真と無表情の占部。やがて占部の前までやってくると静かに立ち止まり、俯いている顔をおどろおどろしくあげる。

鹿子「あなた…占部 千読さん?」
占部「……ええ」
鹿子「(クスッと笑って)本当にいたんだ……”渋谷の死神”」
夢羽「渋谷の死神…?」

 占部の二つ名に反応する夢羽。鹿子の声は掠れていて生気がないが、通常時の人を小馬鹿にする性格は言葉の端々に表れる。

占部「その呼び名は好きになれないわ」
真「なんで? かっこいいのに」

 夢羽に殴られる真。

鹿子「人の死を的確に当てることで有名だって聞いてたからどんな怖い人かと思ってたけど……意外と小柄で可愛らしい人だったのね」
占部「ええ、よくそう言われる」
夢羽「謙遜しろ」
鹿子「(夢羽と真を見ながら)あら……アシスタントまでいるのね」
夢羽「いや、俺たちは……」
真「アシスタントのシンちゃんとムーミンです。二人合わせて『シン・ムーミン』です。よろぴくぅ」

 真を睨みつける夢羽。宥める真。

真「まぁまぁ落ち着いて。ちよみんを手伝えば、”神に会う方法”について何か進展があるかもしれないじゃないか」
夢羽「ったく…ていうかさ…」

 夢羽、ニヤニヤしながら鹿子を後ろから見下ろしている黒いモヤを見る。

夢羽「これ何? 見えてんの俺だけ?」
真「何のこと? ニヤついてる黒いモヤモヤくんなんて僕には見えないよ」
夢羽「しっかり見えてるよね」

 黒いモヤ。

夢羽「俺…今までこんなの視えたことなかったのに、なんで?」
真「開眼のきっかけは人それぞれだよ。ある人は誰かの死を境に視えるようになるし、またある人は死にかけたことで視えるようになる。たまたま霊界との波長があっちゃって視えるようになった人もいるしね」
夢羽「キッカケ…か」

 夢羽。夕方のビルの屋上で、十二鳥の存在や、自分お力で手帳を吸い寄せたこと。五右衛門を吹き飛ばしたこと。突如現れたUFOなど、起こったことを思い起こす。真は考え込んでいる夢羽を横目で見ている。

占部「で、わざわざ私のところに来たってことは、何か診てほしいのよね」
鹿子「ええ、もうあなた以外に頼れる人がいないの」

 夢羽、占部の後ろ姿とテーブルを見て心の中で話す。

夢羽「(ていうかこの人…キャッシャー以外何も置いてないな。普通占い師って、タロットカードとか水晶玉とか、そんなアイテム使うんじゃないのか?)」
 
 鹿子、深く息を吐く。

鹿子「占部さん、私って死ぬと思う?」
占部「???」
鹿子「私、この前健康診断に行ったのよ。このところ体調が優れないから、癌にでもなったんじゃないかって心配になったわけ。でも、結果は正常中の正常。健康そのものでどこにも異常はなかったの」
占部「とてもそうは見えないけど」
鹿子「そうでしょ? だけど食欲もないし、キープしてたスタイルも崩れ始めて、骨と皮だけになっちゃったわ。これで健康だなんて、私だって信じられないわよ。これじゃあもう……」
占部「男も作れない?」
鹿子「え、なんで……」
占部「あなたは人並み以上にモテていて、男に困ったことなんてなかった。むしろ、道具かなんかと混同して雑に扱ってたんじゃないかしら」
夢羽「ちょっとそれは失礼じゃ……」
鹿子「さすが占い師さん」
夢羽「!」
鹿子「(痩せこけていながらも生意気に笑みを浮かべ)まだ素性も話してないのに、よくわかったわね」
占部「私、人を見下す人間の視線には敏感なの。でもそんなことはどうでもいいわ。あなたの悩みは健康のことでもなければ人間関係のことでもない。さっさと終わらせて報酬をもらいたいから結論から言うけど、あなた…」

 占部、大きな瞳で鹿子を見透かしながら。

占部「死神に好かれてるわね」
夢羽「え?」
鹿子「死神…?」

 目を丸くする鹿子。夢羽、黒いモヤをチラリと見る。

占部「今、あなたの周囲にいる人間が不審な死を遂げてるんじゃないかしら。だから怖くなって、死を専門としている占い師の私に助けを求めてきた。そもそも私は死の専門ではないのだけれど」
真「ほぉ」

 呆気に取られる夢羽と鹿子。真はニヤついている。

夢羽「(黒いモヤを見上げながら)こいつが…死神?」
真「そうなんだけど、何かおかしいね」
夢羽「何が?」
真「死神は本来、死を迎える人間に憑いて、その人物が生の期間を満了したら任を解かれる。つまり、仕事終えるとまた別の職場へ出勤するんだ。だから対象人物の人間以外にまで死を及ぼすことはないはずなんだけどね。現に、依頼人は健康面では何の異常もないわけだし」

 夢羽、改めて黒いモヤを訝しげに見る。諦めたように鹿子は息を吐き、回想シーンと共に語り始める。

鹿子「…2ヶ月ほど前よ。急に私の体調が悪くなりだして、その時、付き合ってた彼氏がバイクで病院まで連れてってくれたの。でも、道中で急にエンジンの調子が悪くなって、対向車線からやってきたトラックにまったく気がつけなかった」
夢羽「え、じゃあ…」
鹿子「もちろん、跳ねられたわ。それはもう、大胆にね。彼は即死。跳ね飛ばされた挙句、止まらないトラックに轢かれてね」
真「なかなかにショッキングだ」
占部「2ヶ月前の出来事と言ったわね。見たところあなたは無傷のようだけど、どうやって助かったのかしら」
鹿子「信じられないと思うけど、私は奇跡的に地面に着地できて急死に一生を得たの。事故に遭う瞬間って、時間がスローになるって言うじゃない? そんな感じで、まるで何かが受け止めてくれたように、ゆっくりと地面に導いてくれたというか……」
占部「それから?」
鹿子「その後も、私は何度か他の男と付き合った。一人じゃ生きていける気がしなくて、別れてもすぐ別の男を探しちゃうのよ。でも…」
占部「全員、死んだ?」
鹿子「…ええ」

 占部の目にも黒いモヤが見えており、大きな瞳でそのモヤを見つめる。

占部「戦慄さん。これからしばらくあなたに同行するわ」
鹿子「え、なに、どういう…」
占部「言葉の通りよ。あなたは周囲に危険を招きかねない。だから私たちが1日かけて見守ってあげるの。追加料金はいただくけど」
夢羽「”私たち”…?」
鹿子「冗談じゃないわ…! 私が何をしたって言うのよ。あなた占い師なんでしょ? だったら早く解決策を教えなさいよ…!」
占部「答えはあなたの行動次第で変わるものよ」

 夢羽、真と同じ言葉を使った占部を見る。

鹿子「何わけわかんないことを…! もういい、帰る! 頼った私がバカだったわ…あっ」

 勢いで立ち上がる鹿子だったが、力が入らず後ろに倒れそうになる。

夢羽「危ないっ!」

 夢羽が慌てて鹿子の背中を支え、転倒を防ぐ。同時に、夢羽の鞄から礼夢の手帳が落ちる。その瞬間、真と占部の目が途端に険しいものに変わる。

夢羽「(鹿子を支えながら)大丈夫ですか…?」
鹿子「ごめんなさい…ありがとう」
真「夢羽くん」
夢羽「??」

 いつの間にか、守るように真と占部が夢羽と鹿子に背を向けて囲んでいる。

夢羽「あれ、何やってんの二人とも?」
真「今すぐ彼女を離した方がいいかも」
夢羽「なんでだよ?」
真「だってさ、ほら」

 夢羽が視線を移すと、黒いモヤが恐ろしい怒りの形相で夢羽を見ている。

真「あちらさん、かなりご立腹のようだから」

 夢羽、冷や汗を流しながらモヤを見上げ。ゆっくりと鹿子の体制を元に戻し、手を離す。すると、モヤは怒りの形相から徐々にニヤついた表情に戻っていき、空気も正常な状態に。

真「男が彼女に触れることは御法度みたいだ」
夢羽「なんなんだよそれ…!」
鹿子「なになに? なんなの? あなたたちさっきから何を見てるのよ?」
占部「戦慄さん。あなたこのままじゃ、一生、男と付き合えないわよ」
鹿子「そんな…いやよそんなの!」
占部「なら、決断してちょうだい。あなたは元の生活に戻りたいの? 戻りたくないの?」

 鹿子、少し考えて。

鹿子「何でもいいからなんとかして!」
占部「交渉成立ね。大丈夫よ、後のことはシン・ムーミンがなんとかしてくれるわ」
夢羽「シン・ムーミン…? って、俺たちかーい!!」
真「(ニコニコしながら)楽しい展開になってきたねぇ」
夢羽「どこが楽しいもんか! ”神と会う方法”を探り出していきなり死神かよ! ハードモード過ぎだろ!」
真「落ち着いてよ夢羽くん…ほら」

 真、視線を地面に移す。夢羽も下を見ると、落ちた拍子に開いている手帳を目撃して目を見開く。

真「運命は常に君の味方だ」
夢羽「親父…あんた…」

 開いた手帳のアップ。中には、「死に打ち勝つ方法」と記された見出しが書かれている。

夢羽「何者だったんだよ…」

noteにて公開中

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