映画「ドント・ウォーリー・ダーリン」鑑賞・レビュー

監督：オリビア・ワイルド　主演：フローレンス・ピュー　ハリー・スタイルズ　クリス・パインの映画「ドント・ウォーリー・ダーリン」を鑑賞したのでレビューしていく

※僕のレビューはネタバレを含む場合があります。興味のある方のみご一読ください。

完璧な生活が保証された街で夫ジャックと幸せな日々を送るアリスは、隣人が赤い服の男たちに連れ去られるところを目撃する。それ以降、彼女の周囲では不可解な出来事が続発。次第に精神が不安定となり周囲からも心配されるアリスだったが、あることをきっかけに、この街に疑問を抱くようになる。
映画「ドント・ウォーリー・ダーリン」あらすじ

雰囲気だけを予告で観てろくにあらすじも読まずに鑑賞した映画だったので、まさかの内容・展開に驚いたのが素直な感想だ。解き明かされていく疑問と、明らかになった真相とテーマの開示。いずれもバランスの取れた作品でとても楽しめた。

ユートピアスリラーと銘打っているだけあって、主人公のアリスは夫のジャックと共に、砂漠のど真ん中にある小さな街で悠々自適な生活を送っている。その町の男たちは、毎日決まった時間に「ビクトリー」と呼ばれる会社に出勤し、決まった時間に帰ってくる。その間、アリス含める妻たちは家の掃除や炊事洗濯をテンポよく進行していき、絵に描いたような幸せな夫婦生活が演出されていく。

ビクトリープロジェクトが管理するその特別な環境は、何かの目的があって生み出され参加者の協力を得ながら研究していると、最高責任者「フランク」が語る。その計画が何なのかはわからないが、アリスは時折頭の中に過ぎる妙なビジョンや、隣人の妻に起こり始めた異変を垣間見ることによって、徐々にユートピアのおかしな点に気づき始めていく。

人間とは不思議なもので、完璧すぎる日常は返って違和感を抱くもの。それは作中の主人公たちに限らず、観ているこちら側にまで影響を及ぼす。なぜなら、この世に完璧なものなど存在しないことを僕らは骨の髄までわかりきっているからだ。本作はそんな僕らの心理を巧妙に操り、冒頭から物語の中に上手く引き込まれるよう設計されている。

アリスのいるユートピアは、実は仮想世界の中。夫たちはビクトリープロジェクトに志願し夢のような生活を手にすべく、妻たちを仮想世界に閉じ込めていたのだ。日々、決まった時間に本社へと出勤していく男たちは、実は現実世界に戻って仮想世界を利用するための維持費を稼ぎに行っているだけだった。本作は男尊女卑が忠実に守られた世界観の中、女性による男性への叛逆が主な題材となっている。

しかし一方で、本作のテーマは、個人的に「愛の偏り」だと思っている。

アリスの夫であるジャックは、現実世界で日夜医師として働き詰めのアリスを心配していた。次第に彼女からの愛を感じられなくなっていくジャック。そんな時に出会ったのが「ビクトリープロジェクト」だった。ジャックは愛を失うまいとして、半ば強制的にアリスを拘束し、仮想世界へと閉じ込めてしまう。

僕が思うに、アリスとジャックどちらもお互いに対する愛が偏り過ぎてしまったことが映画の中で起こる事件の要因だ。アリスは仕事を全うし生活を支えることでジャックへの愛を伝えるが、ジャックは彼女が仕事ばかりで幸せではないと思い込む。ジャックは彼女を仮想世界のユートピアで生活させ、仕事から解放された生活を提供することで愛を伝えるが、本来のアリスは仕事が好きで、ありのままのジャックを愛していた。

要するに、すべては愛のすれ違いが招いたものなのだ。

「誰もが幸せになりたい」という普遍的な願望が行き過ぎた末の結果。物事には完璧など存在せず、完璧である必要はない。今作は当たり前で忘れがちなテーマを、アリスとジャックを通して教えてくれる。

タイトル「ドント・ウォーリー・ダーリン」…日本語にすると「心配しないでダーリン」となるが、これは、双方から出た愛の言葉だ。

だが、どうやらお互いに相手を心配し過ぎてしまったようだ。心配するあまり、その想いは相手のためではなく自分のために比重が傾き、重さに耐えきれなくなった天秤は崩壊してしまった。

さながら不思議の国のアリスが混沌から抜け出すように現実世界に戻るアリス。その時、失ったものと後悔が押し寄せ、消えることのない苦しみを抱き続けるのかもしれない。

個人的に、冒頭でジャックに車の運転を教わっていたアリスが、その教えをクライマックスで存分に生かされていくのも見どころだ。

映画「ドント・ウォーリー・ダーリン」は、完璧を求めている人にほど観てほしい作品だ。