筆者の小説・詩

ショートショート「天才と凡人会議」著者 MAGUMA

 世界を揺るがす大惨事に備え、重大な意思決定を行う場に数人のトップが集まっていた。この星に住む命を守るため、天才たちは口々に対策案を発言している。そしていよいよ、決断の時が訪れようとしていた。

「世界のために効率的な対策を打つのならば、もうこの方法しかない」
「うむ、ここ数年間で統計された数字がすべてを物語っている」
「では、そのように動きましょう」
「皆、異論はありませんな?」
「うむ」
「問題ありません」

 天才が数人揃っていれば、大所帯な会議を開かなくても短時間で十分な決断を下せるものだ。しかしこの世には、なるべくして天才となった者の他に、なるべくして天才たちの座に上り詰めてしまった凡人もいた。
 先ほどまで黙っていたはずの一人の凡人が、意見が出揃ったタイミングを見計らって、ここぞとばかりに天才たちに意を唱え始めたのだ。

「その結論はいささか見当違いなのではありませんか? この世には数字では計りきれないものも存在します。各国に住む国民の気持ちも汲まなければ」

 凡人の意見に、天才たちは再び頭を抱え始めた。ようやくまとまりかけていた対策が、もう一度振り出しに戻ってしまいそうだったからだ。

「では、あなたはどのような案がおありなのでしょう?」
「まずは、全国民に意見を聞くのです。直に気持ちを聞くことで、本当に世界中が何を望んでいるのかがわかります」
「そのような時間はもうないと思うのですが」
「では、あなた方の決断は絶対的な信憑性に足る計画なのでしょうか?」

 天才たちは矢継ぎ早に飛んでくる凡人の言葉に「う〜ん」と言ったり黙ってしまったりと、会議室は異様な空気感に包まれていった。
 やがて、一人の天才が口を開いた。

「確かに、彼の言うことも一理ありますね」

 天才の一人が凡人の意見に共感を示したのだ。このことがきっかけとなり、天才たちは次々と考えを改め始め、結論はみるみるうちに形を変え、あっという間に凡人の提案した計画へと変更することになった。

「では、この結論で問題ありませんかな?」
「うむ」
「はい」
「問題ありません」

 かくして、数人の天才と一人の凡人により、世界を救うための計画が始動されたのだった。

 しかし、計画の進行は難航を極めた。

 世界中の国民に意見を聞いているうちに、危惧していた大惨事がやってきてしまったのだ。国民が泣き叫ぶ中。各国政府は凡人の提案で急遽変更された計画に気を取られ、何の準備もできておらず動くに動けない状態だった。

 星の終焉を目の当たりにしながら、生き残った人々はただ祈りを捧げることしかできない。そんな中、生き残っていた一人凡人が、薄暗闇に包まれた空を見上げながら、会議のことを思い出しつぶやいた。

「あーあ、だから言ったのに」

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