何者でもない僕らのビジョン

漠然としているからこそ夢なのかもしれないが、生きるために追いかける夢を漠然としたまま放置してはいけないと気づいた夜。特に僕のやっているアーティスト活動は、一般的な会社とは違って需要と供給が明確になりづらい生業だ。だからこそ、どのように行えば社会貢献が成立する職業にできるかを常に模索し続けているわけだが、なかなかどうして厳しい現実と日々向き合っている。

ハッキリとしたビジョンが見えている仕事を長年勤め上げてきた人間にとっては、やはり僕のような「好き」を仕事にする生き方は不思議で仕方がないらしく、僕らの目には「いったいどういう未来が見えているのか？」をとても気にされていたのが今でも脳裏に焼き付いている。なぜなら、アーティストである自分が当たり前すぎて、そんな些細な疑問に行き当たらなかったからだ。

ただ、好きだからという理由で仕事をするにも、そこには「食えるのか？食えないのか？」というしがみつくされた問題と直面する。この手の話になると堂々巡りになるので割愛するが、アーティストとして活動する上で、「どのようにして生計をたて、最終的にどういう形で落ち着くのか？」をうやむやにして活動している人がほとんどなのが現実だろう。

大手芸能プロダクションにおいては「アーティストを売る」ことが商売になるため、その辺りのビジョンは綿密に形成されているのかもしれないが、インディーズアーティストかつセルフプロデュースで仕事をしている人は、大抵が未来のビジョンがハッキリとしていない。かくいう僕も、考えているつもりではあるが、まだ人に大口を叩いて「見えている！」と言えないところが恥ずかしいところだ。

今はプロセスに価値がつく時代となっているが、残念ながら人は確かな情報に信頼を寄せる生き物である。まだ何者にもなれていないアーティストがビジョンを語ったところで、果たして信頼にたるものなのかどうかが怪しいし、悲しい話なのだが、結論としては、「自分を信じ抜くこと」が一番のアンサーになるだろう。

自分自身が信じる理想があるのなら、他人からいかに批判されようと邪魔をされようと、信念を曲げずに貫き通す。それこそが何者でもない僕らが唯一行使できる権利であり努めだと僕は思う。

笑われたっていいじゃないか。怒られたっていいじゃないか。僕やあなたが目指しているビジョンが道徳に反するものでなく、世界中を幸福で満たすという名目である限り、掲げた旗にはいっさいの翳りもないはずだ。

ならば、その旗を振り続けよう。何者でもない僕らが何者かになるその日まで。我、ここに在り！と叫び続けよう。世界は広い。必ず誰かしらが僕やあなたを見つけてくれると信じて。

それでは、また。