筆者の評論

映画「ひとくず」鑑賞・レビュー

上西雄大監督の映画「ひとくず」がAmazonプライムで配信されていたので鑑賞。さっそくレビューしようと思う。評論は久方ぶりなので書くだけで緊張。作品に興味を持っていただけると幸いだ。

※僕のレビューはネタバレを含む場合があります。興味のある方のみご一読ください。

虐待を受け、電気もガスも食料も確保されていない一室に監禁されていた鞠は、たまたま空き巣に入ってきた金田と出会う。金田も幼い頃に虐待を受けていたことから鞠と自分を重ね合わせ、金田は鞠を暴力から守ることを決める。しかしそこに鞠の母親「凛」と遭遇し、凛の恋人であるヤクザの男から鞠を救うため、金田は男の命を殺めてしまうのだった。男の死体を遺棄したのち、金田、鞠、凛の3人による奇妙な同棲生活が始まり、かくして3人は本当の愛を知っていくことになる。

映画「ひとくず」

物語は意外と単純明快。もちろん、とてもいい意味での単純さだ。昨今は変化球を狙った複雑な話が多い。そんな中、誰にでも理解できる物語は大変貴重なものだ。

殺人と空き巣を手にかけた主人公「金田」と、母親の恋人から虐待を受ける「」。そして母親「」の3人をメインに物語が展開していくTHE・人情劇場。人の腐り切った部分から見え隠れする愛が、映画に歪な空気感を漂わせている。

カット割とカラーグレーディングに多少の違和感はあるものの、テーマがはっきりしていて余計な装飾が少なかったため、映画としてとても楽しめた。

児童虐待によって子供がどのような影響を受けて成長していくのかを痛々しい描写から見せつけられたし、何よりも感銘を受けたのは”人間の最も醜い中に存在する最も尊い愛情”だ。

人として最底辺の登場人物をメインに物語が進行することで、愛情という美しく繊細な価値をより際立たせており、シーンの随所で”光は常に自分の中にある”ことを気づかせてくれる。

男として堕落した金田と、女として堕落した凛。濁った水のように底の見えない人生を歩んでいた二人は、鞠という純粋な光によって本当の愛情を知っていく。次第に心を開いていく3人の会話は観ているこちらでさえ心温まり、知らぬまに微笑んでしまっているほどだ。

個人的に感動したのは、誰よりも痛みに敏感なはずの鞠が健気に凛へ母の愛情を求め、乱暴な金田の中に在る”優しさ”に気づき、素直な想いを表現していく姿だ。鞠役の小南希良梨さんの演技が上手すぎて驚いたのもあるが、ひとくずの中にある確かな光の部分が遺憾なく効果を発揮させていたように思う。是非、彼女の表情に注目してほしい。

僕はずっと調和を尊重し偏りのない生き方を模索し続けているが、この作品から、偏りが生む悲劇と、金田や凛のような闇と鞠のような光がブレンドされ”調和”することで、歪曲した環境の中でも確かな愛が芽生えることをメッセージとして受け取れた。

レビューの中には児童虐待に対する認識の甘さを指摘するものもあったが、僕個人として十分理解できる内容だったと思う。もちろん、すべて理解できるわけではないが、少なくとも現実として既に起こってしまっている問題であることは多くの観客に周知されただろう。これは大きな一歩だと思う。まずは知ってもらうことが何よりも大事だから。

どうやらAmazonプライムで配信されているものはディレクターズカット版らしい。当時は尺が長すぎて映画館で上映ができず、やむなくシーンをカットして上映していたようだ。しかし、多くの観客を得たことで、本来魅せたかった「ひとくず」を余すところなく詰め込むことができるようになったとのこと。僕が観たのは、まさにその集大成だったのだろう。

実は、僕が観た上西雄大監督作品はこれが初めてではない。宮古島を舞台とした映画「宮古島物語 ふたたヴィラ」も映画館で鑑賞している。こちらも人情味溢れる大変素晴らしい作品だったが、ちょっとした不思議要素も入っていて「ひとくず」とはまた一風変わった作風となっている。是非また、お目にかかれる日があれば鑑賞してほしい。

映画「ひとくず」は、現在はAmazonプライムとU-NEXTで配信されているようだ。愛情に飢えている方は、是非ご鑑賞を。一度観れば、求めていた愛は既に持っていたことを実感できるはずだ。

それではまた。


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