監督:イーライ・ロス 主演:ロレンツォ・イッツォの映画「グリーン・インフェルノ」を鑑賞したのでレビューしていく。
※僕のレビューはネタバレを含む場合があります。興味のある方のみご一読ください。
森林伐採の不正を暴くためアマゾンを訪れた環境活動家の学生たち。過激な活動が問題となり強制送還されることになるが、帰りの飛行機にエンジントラブルが起こりジャングルに墜落してしまう。なんとか生き延びたものの、そこで彼らを待ち受けていたのは人間を食べる習慣を持つ食人族だった。学生たちは食人族に捕らえられ、次々と餌食になっていく(映画.comより引用)。
映画「グリーン・インフェルノ」あらすじ
珠玉のカニバリズム映画。映像的にも象徴的にも綺麗事を一切合切無視したリアリティに富んだ演出で、皮肉の効いた素晴らしい作品だった。
冒頭から人間における偽善的正義感に疑問を抱かせる物語が展開。浅はかな正義により、環境活動家などの反対運動によるまた別の”戦争”が生み出されていくという矛盾を僕らの脳内に植え付けていく。今回はアマゾン伐採に反対する若者たちがメインとなり、主人公「ジャスティン」は環境活動家の運動に興味を持ち軽い気持ちで参加(いちご白書の主人公の行動に通ずる動機)。父親が国連の職員というエリートの家系で育ったジャスティンにとって、何か自分の意思で積極的な活動をしている姿を父親に見せたかったのかもしれない。
アマゾン伐採の映像をストリーム配信することで、世界中に喚起を促そうと計画、実行する一同。しかし、ジャスティンが魅かれて参加したグループのリーダーであるアレハンドロのヒーロー的な姿は、のちに無惨に打ち砕かれていく。
彼は正義のためならドラッグの売人をも利用し、挙げ句の果てには国連と深く繋がりのある父を持つジャスティンの立場を悪用する”エゴに塗れた人間”だったのだ。ストリーム上で唯一素性を明かされたジャスティンは憤慨するが、これも正義のためだと諭される。
程なくして、環境活動家の行なっていた偽善的な裁きとは別の”本当の裁き”がチーム全体に降りかかることになる。
登場していた飛行機のエンジントラブルにより、一同はアマゾンのど真ん中に墜落。ドラッグの売人含めた数人の仲間が死亡し、生き残ったメンバーはなんとか助けを呼ぼうと画策していた。そこに現れるのが、食人族のヤハ族というわけだ。ヤハ族はジャスティンたちを外敵と判断して拘束し村に連行。ジャスティンたちは自分たちが守ろうとしていたアマゾンの一部に食べられていくという皮肉な展開へと巻き込まれてしまう。
見せ場である捕食シーンは遠慮がなく、観ていて気分が悪くなるほどのグロテスクなものだったが、ここまでやりきってくれないと見応えがないのも確か。彼らにとってはそれが普通の食生活であることがわかるほど悍ましい思いに駆られ、無闇やたらと他国・他者の課題に首を突っ込めば酷い目に遭うということを象徴的に伝えている。同時に、人間は表の顔次第でいくらでも人を欺くことができる醜い生き物だと思い知らされるのだ。そういう意味では、食人族であるヤハ族の方がよっぽど裏表がなく生きている”純粋”な生態系だ。自然と調和して生きてきた人類と、文明社会に塗れた人類との対比が非常によく描けていた。
最終的にジャスティンが脱出して助けを求めたのは、アマゾン伐採に加担していた組織。つまり、自分たちがストリーム配信にて伐採を妨害した当事者たちだった点が、皮肉が最高潮に達したクライマックスだ。だが、ここでジャスティンが下した選択が、本作のもっとも重要なテーマだったと見受けられる。
個人的に受け取った本作のテーマは「調和を重んじる」こと。
生還したジャスティンが自分たちに酷い仕打ちをしたヤハ族に報復をすることが従来の流れだと思う。が、ジャスティンはそうではなかった。あくまでも、先住民族たちには丁重にもてなされ、アマゾンという広大な自然を守らなければならないことを訴えるのだ。事実、脱出直後にヤハ族と抗争状態に入っていた伐採組織を、ジャスティンはうまく言いくるめて撤退させている。
調和を思わせるシーンは他にもあった。ジャスティンは母の形見である笛を持ち、囚われの身ながらもヤハ族の少年と何度も交流を図ろうとしていた。その結果、その少年に命を救われ、逃げ道を教えてもらうことができたというわけだ。
結果的に、生還したジャスティンの言葉で自然環境に対する意識は周知することができたが、多くの犠牲を払うことになったのは言うまでも無い。ジャスティンは苛烈な経験を得て、正しい正義・調和が何たるかを学んだのだろう。
この世界には境界線があり、中間に立つか、偏るかですべてが変わる。ジャスティンは中立を保つことで生きることができた。対する取り残されたリーダー、アレハンドロは……最後の映像を観ればお分かりだろう。
目を背けたくなるような場面にこそ、真理が宿っている。
生き方そのものに深くメスを入れられるような、圧巻の映画だった。それこそ、内臓を貪られるように。
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