僕はトロイ。トロイと言ってもあのトロイア戦争のトロイではなく、身体的に遅いという意味のトロイだ。
時間感覚も個人差があると思うし、僕自身も体感時間で計測して急いだりマイペースを保ったり調整しているわけだが、急いでいるつもりでも遅くなってしまうことが多々ある。
もちろん、昨今の運動不足による体力の低下が主な問題として関わっているが、それを抜きに考えても、これ以上のスピードはどう頑張っても出せない領域がある。つまり、身の危険を感じる領域だ。とにかく迅速に挑まなければならない場合は、僕だと取り組んでいる作業の効率化を妥協しなければスピーディな動きができないし納得のいく仕事ができない。
しかし、芸能界であれ他の業界であれ人はやたらとスピードを求め、遅い奴らはどんどん淘汰されていってしまう。クリエイティブな仕事の場合だと、とりあえず見苦しくても良いからなんでも先に作ってしまい、後からブラッシュアップして成功率を上げていくスタイルが主流だ。どれだけ時間をかけて完成度を上げたところで、出したものが使えなかった時に取り返しがつかなくなるからだ。
理屈としては理解できるものの、”高速でやってはいけない現場”もあるにはあるわけで、直面する度に歯痒さと悔しさ両方を抱えたまま仕事を終える。
人間はいつから速さを求められるようになったのか、やはりすべての根源は原始時代にあるだろう。早く動かなければ食糧も確保できず、捕食者からは逃げられない。早く動かなければ準備が間に合わずに冬を越せないかもしれない。とにかく進化しなければ。進化…辛化…死化…。そして神化を求めて体に鞭を打ち続けた。環境が僕らにレベルアップを促したことで、知らない間に早く動くということを遺伝子レベルで刻まれていったのかもしれない。
でも、トロイ僕は思うのだ。もともと我々は、進化などに執着せずとも幸福に生きられたのではないか？と。
結局のところ、スピード重視の社会が人間の精神と肉体を蝕んでいると思うのだ。競争なんてしなくたって生きていける。でも競争で勝ち上がれなければ理想のビジネススタイルを手に入れることはできない。手に入れるためには、やはりスピードが求められる。だが、そんな社会は人間を萎縮させるだけだ。第一線で生き抜いてる人間は、僕が思うにネジが外れているだけで後から必ず反動をくるだろう。生きている間にやりたいことをどんどん実現させたい気持ちはわかるが、どうにも生き急いでいる感じがして見ていてしんどくなることがあるのだ。
有限な時間を、穏やかに過ごす道だって素晴らしいではないか。現代では既にスローライフに移行した若者も多くいる。最終的にどちらを選ぶのかは個人個人の意志によって変わってくるが、今なら気楽にどちらかを選択できる時代になっているように思う。
僕は歌手としても作家としてももっと活躍したいが、自分のペースを乱さなければ手に入らないものなら正直考えものだ。だが、令和であればスローペースでもやりたいことで食べていけることも実現できると信じている。それこそカメのような鈍行でずっと歩くことになるが、穏やかに幸福を見失わずにゴールへ向かえるならば僕はいいと思うのだ。
別段、僕は成功しているわけでもないが、それでもスローペースで動くことは悪いことではないと推奨したい。いつの日か僕自身が今のスタイルで成功者となり、説得力を持って影響を与えたいところだ。早すぎると、大事なものを失くしてしまいがちになる。燦々と在る太陽の下で皆にはそうなってほしくはないと、感慨に耽った今日この頃だ。
それでは、また。
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