Web小説「焼肉王子」〜プロローグ〜




事実は小説よりも奇なり

世界中に蔓延る歴史的発見やそのプロセスは、誇張した演出によって劇的な変化を遂げ、まるで伝言ゲームのように私たちの元へとやってくる。その情報のソースは?エビデンスは?多くの人間は抱くべき疑問に気づくことなく、日々をのうのうと過ごしているのだ。

今回お話しする事象もその一つである。

日本のとある山岳地帯。緑溢れる山々の一角に、ひらけた荒地が見えてくる。その各所、至る所にテントが張り巡らされ、ロマンを追い求める者たちが、汗水垂らし、今日も歴史の真実を探るために発掘を続けていた。

静かであるものの情熱のうるさいその場所に、本当の意味で耳を防ぎたくなるほどの騒音が轟く。その音の正体は、巨大なプロペラを回転させる人類の技術の結晶、ヘリコプターのものだった。

異形であるその光景が、もはや普通となってしまった飛行物体の着陸を遠目で見る者や、その影響で舞い上がる砂埃に目を覆う者、発掘現場の状態を必死で維持する者で分かれている中、たった一人、ヘリコプターへと歩みを進める男が一人。どうやらヘリを呼んだのはこの男のようだった。

壮大な登場を演出し、高速回転していたプロペラが徐々に失速していく中、ヘリからサングラスをかけた巨体がゆっくりと、かつ豪快に大地へと足をつける。

天然パーマのかかった高齢者とも思わしきその男は、高齢者ながらもどこかエネルギーに溢れたオーラを纏っている。黒のカッターシャツに、同じく黒で薄手のロングコート。袖は腕までまくっており、その腕からは、長い年月をかけて鍛え抜かれた、その男の人生が伺える。

「JIのホンゴウさんですか?」

ヘリを呼んだと思わしき男が、騒音の中、大声で呼びかける。サングラスをかけた巨体、ホンゴウは、威風堂々たる面持ちで確実に近づいていき、胸ポケットから勢いよく手帳を取り出して見せた。

「JIのホンゴウだ。」

決して立ち止まることなく、刑事の見せるそれのように、自分の身分を臆することなく明かしたホンゴウは、男を追い越しながら続け様に口を開く。

「例のものは?」

「あそこの洞窟です。」

早足でホンゴウを追いかけながら男が説明する。重くのしかかるような低音で話すホンゴウに萎縮しながらも、男は出来うる限りの力で対応するが、どこか頼りない。

「言われた通り、まだマスコミにも誰にも報告していません」

「特徴は?」

「壁画のようなものです。そこまできれいではありませんが、推測する時代的に不自然なものが多くて……」

「関連のありそうなものの情報は一ミリたちとも口外はしないよいうに。あとはこちらで管理する」

「なぜこれを発表してはダメなんですか?世紀の大発見なのに……」

男の言葉をよそに、ホンゴウは目的の場所で立ち止まる。洞窟の入り口付近には、立ち入り禁止と書かれたテープで遮断され、テントで覆い、中は見えなくなっている。危険区域として、嘘のボーダーを作っているようだ。

本郷はその身を男へと向ける。

「知ることで世界全体が崩壊する可能性がある。それを未然に防ぐために我々がいる」

「はぁ……」

威圧的な空気であるにも関わらず、どこか棘のない不思議な雰囲気に、男は黙り込む。それに気づいたのか、一白おいて、ホンゴウは男へと問いかける。

「考古学者としての、君の見解は?」

助け舟なのかどうかもわからないその問いかけに困惑するも、ようやく自分の専門性を見て問われたことに救われる考古学者の男は、今わかっている全力の見解を述べる。

「それは……とにかく奇妙です」

洞窟の中。男の案内により、ホンゴウはテープをまたぎ、テントの幕を開け、中へと入る。小さな空洞には、入り口の幕越しからしか光が入ってこないため、中が薄暗い。サングラスを外し、ホンゴウは洞窟内の状態を見渡す。

正面は行き止まりとなっており、暗くてはっきりとは見えないものの、そこにあるのが、例の壁画の部分であることはわかる。ホンゴウは先程の威勢を沈め、静かに、したたかに、壁の方へと歩みを進めていく。ふたりの足音が響き、妙な緊張感が、まるで別の世界に来たかのような、錯覚を起こさせる。

「こちらです」

男が両脇に立てかけられている照明をつけると、壁一面が一気にライトアップされた。発掘を再開した採掘音が遠くから聞こえてくる。そんな音などもろともせず、目の前に広がる光景に、先ほどまで粛々と任務を遂行していたホンゴウの声が、微かにどよめく。

「これは……」

おそらく、原始時代のものだろう。猿のような存在の群れ、火を作っていたり、肉を焼いていたりなど、生活の営みのようなものが描かれている。マンモスなどの生物や、中にはその時代にいた牛にも似た動物のようなものまで。だが、ホンゴウが動揺しているのは、そんなもののせいではなかった。

「世界が崩壊するとは思えませんが、言葉を失う気持ちはわかりますよ」

少し余裕ぶった男の言葉を受け入れる余裕などない。中央には、同じく猿たちが何かにひざまづいている絵。その中央にいる存在に、息を呑むほどの衝撃を覚える。

ホンゴウはその壁を直視したまま、右ポケットより携帯をゆっくり取り出し、すぐさまその場で電話をかける。

「ホンゴウだ。至急、現場に数人よこしてくれ。あぁ、レベル3だ」

レベル3がどの程度のものなのかはわからない。が、事態が急を要していることは見てとれる。相変わらず照明の位置を陣取っている考古学者へ、携帯をしまったホンゴウは、先程同様、再び威風堂々たる声色を発する。

「これからこの一帯は我々JI……ジャスティスインダストリーズの管轄となる。速やかに撤退し、持っている情報をすべてこちらへ提出するように」

あまりに突飛な申し出に不意をつかれる男だが、同時にあまりに不躾な申し出であることも瞬時に理解した。つい数分前までのような萎縮していた態度から一変し、顔を真っ赤にした男はホンゴウへと詰め寄った。

「な、何を勝手なことを!俺たちはこの研究に人生を賭けてるんだぞ!そんな勝手な命令に従えるか!」

「君たちは歴史の真実を探究しているが、我々は世界の明暗を選択する重要な任務を遂行している。速やかに撤退を受け入れてくれれば、今後の研究に必要な設備と資金も提供しよう。そもそも、君もこの壁画が手に負えないものだと理解した上で、我々に連絡をよこしたんじゃないのか?」

痛いところを突かれ言葉を失いながらも、自分だけではどうすることもできないもどかしさに体が震え、男は荒い息遣いでその場を後にした。

外からは、同志たちに撤退を支持する怒号が聞こえてくる。だが、やはりホンゴウの耳には届いていない。壁画の中央に存在する、時代に則さない情報。

ひざまずく猿の群れ、その先に、猿たちが崇拝している男が立っている。男は肉を掲げ、純白の衣に真紅のマフラーを靡かせているではないか。胸部には「焼肉」の2文字、そしてその頭上には「焼肉王子」と確かな文字が刻まれており、誰の目から見ても、その時代の存在ではないことが明らかだった。

ホンゴウはただその場に立ち尽くし、その奇妙な壁画を見つめ続けていた。

事実は小説よりも奇なり。

世界中に蔓延る歴史的発見やそのプロセスは、誇張した演出によって劇的な変化を遂げ、まるで伝言ゲームのように私たちの元へとやってくる。これから綴られるのは、壁画の中央に描かれた男「焼肉王子」の物語だ。

それでは、想像という名の大海へ、航海を始めよう。

Web小説「焼肉王子」〜第一話「王宍やけるという男」〜

2021年5月4日

MAGUMAへの個人スポンサー

イマジナリー・キングダム発展のため、
僕の活動やブログ記事で感動いただけましたら、活動の支援をお願い致します。

・三井住友銀行
垂水支店
普通5692389
名義/ヤマナカ マグマ

・PayPayマネーによる支援
PayPayホームから『送る』をタップしてMAGUMAのPayPayID(maguma999)宛に『残高を送る』
(**PayPayマネーライト、PayPayボーナス、PayPayボーナスライトの3つによる寄付は許されていません**)

MAGUMAのイマジナリーストアから個人スポンサー権を購入いただくと、
FM那覇にて放送中の「MAGUMAのイマジナリーレディオ」にて、
お名前をご紹介させていただきます。

MAGUMAのイマジナリーストアはこちら